だれかへの手紙

letter to you

『最強のふたり』最強にユーモラスで深いつながりのある友情

『最強のふたり』公式サイト

とてもおもしろく痛快で、あたたかく、その視点で観れば最強のブロマンスと聞いて観に行った。期待以上。
行った劇場は12/28まで公開と、終了間際だったのだけど、レディースデーも手伝って結構な客入り。翌日劇場サイトを見たら1/10までと公開日が伸びているし大晦日にはオールナイト上映もやるしで、評判を如実に物語っている。12月頭に確認した時は12/13までと書かれていた記憶があるから、何度も公開期間を更新してロングランとなっているのだろう。
観ている間ずっとにこにこするし、いつまでも観ていたいと思う、113分で終わってしまうのがさみしく思う。きっとリピーターも多いはず。

実話に基づいたストーリーで、パラグライダーの事故で首から下が麻痺した金持ちのフィリップと、彼を介護するスラムの青年ドリス(実在するモデルの名前はアブデル)の話。
とにかくドリスが明るく、いつもユーモアにあふれて笑っていて、観ているほうも楽しくなる。ドリスの言動には下ネタやら障害に対するタブーも多く含まれていて、おそらくその点でPG12指定されているのだけれど、嫌がらせや蔑視で言っているのではなく、ユーモア、エスプリなのだとわかるから憎めない。それが刺激になってフィリップと打ち解けていくのが見ていて眩しい。だってそんな人はフィリップの周りにはいなかったのだ。
人生に必要なのはユーモアなんだなとしみじみ感じた。金持ちにも貧困層にも健常者にも障碍者にも友情にも恋人にも就職にも、ユーモアと、そのユーモアを一緒に笑ってくれる相手がいれば、怖いことなんて影を潜めるんだ。作中でしばし「息をする」と表現されているのはきっとそういう意味も含んでいるだろう。

 映画が完成し、試写にやってきたフィリップとアブデル。
 上映中フィリップの椅子が動いているのを見たナカシュとトレダノは、彼が笑っているのだと思った。ところが、映画が終わると、彼は目に涙を浮かべていた。そして、「こんな状態になって、私は何年も前に鏡を見るのをやめた。久しぶりに自分の瞳を見たよ」と語り、「私は両手で拍手しているんだ!」と微笑んだ。
 アブデルはほほ笑み、監督たちに、ありがとう、と優しく言ったという。
プロダクションノート|映画『最強のふたり』公式サイト

このエピソードだけでしあわせになれるし、涙が出てくる。

話の展開自体にはらはらどきどきするような映画ではないけれど、できればなにも知らないまっさらな状態で観てふたりを全身で浴びて欲しいので、ここから下は観た人向け。


フィリップは、ドリスを選んだ理由を「同情しないから」と言った。短いせりふだったけど、今でもその言葉とフィリップの表情が印象深い。
自分が誰かを介護をする立場になった時、同情せずにいられるだろうか。ユーモアを忘れずに笑いあえるだろうか。
介護に携わる人もそうじゃない人も、この作品を観て笑ったり泣いたりしながら、考えることはきっと深い。

どのシーンも好きなのだけど、冒頭の場面で内容から微妙にずれた淋しげな曲が流れていた(のちに同じカットが繰り返されて理由がわかる)のと、フィリップの誕生日パーティでのダンスシーンが忘れられない。
誕生日パーティの流れは見事だった。次々変わるクラシックとそれに対するドリスのコメント、ドリスが聴かせるソウルミュージックとダンス、クラシックの楽団も含め、そのリズムに乗る人たちと、笑顔で眺めているフィリップ。
身体が動かなくても、フィリップは一緒に踊っていた。ドリスが導いたんだ。

ドリスがフィリップをひらいている印象が強いけれど、後半でそれが一方的なものではなく相互作用だったことがわかる。
フィリップの邸宅を去り、就職の面接に訪れたドリスが部屋の絵を見てダリだと話題にあげること。あるいは再会したフィリップのたわわな髭を「なんだその髭! ヴィクトル・ユゴーか!」と評すること。フィリップと出会う前のドリスでは考えられない。
木が歌う4時間のオペラを観た後、連れ立ってレ・ミゼラブルを観に行っただろうかと妄想してしまう。ふたりの歩んだアルバムを見せてもらっているような気分になる映画なので、まだ見せてくれていない写真もたくさんあるんでしょう? と訊いてみたい。とても語りつくせないほどあるに違いない。

ブロマンス的にどきっとしたシーンもたくさんある。フィリップの耳に触れたり、髭を剃りながら遊んだり、ふたりで遠くへ逃げたり。深夜、フィリップの呼吸が乱れていることに気づいて、息をするために早朝のパリに連れ出すドリスの尊さ。ストッキングを穿かせることすら嫌がっていたドリスがクソの世話までするようになったのは、性的な意味合いがないからこそ関係の深さを感じる。
最強のふたりが一緒に笑いあっている場面が最強に素敵なので、一度去ったドリスが再び現れた時の嬉しさといったらない。
終わり方もよかった。どこにも文句のつけようがない、本当にすばらしい作品で、今年の終わりにこれを映画館で観ることができてしあわせだ。年が明けてから、また観に行きたい。