だれかへの手紙

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シルク・エロワーズ『iD』

五反田ゆうぽうとホール

稲妻サーカス初来日。

サーカスはシルク・ドゥ・ソレイユしか観たことがなく、自分の中ではすっかりそれが基準になっているのだと、エロワーズを観て気づいた。
シルク・ドゥ・ソレイユのアーティストが創設者だったり、今はシルク・ドゥ・ソレイユが全面協力していると聞いて、それに近いものを観られるのかと勝手に思っていたら全然違った。根底にあるのは同じだけれど、アプローチが違う。
身体を自在に操って使う、ということを目の当たりにできる舞台なのは、共通していた。

内容に触れているので、これから観に行く予定の人は続きを読まない方がいいかも。

iDには、クラウンがいない。アートのようなメイクや極端にきらびやかな衣裳もない。冒頭で(おそらく)出演者全員が舞台上に現れるのだけれど、その多くは、そこらへんを歩いていても違和感のない、若者の普段着のような格好をしていて、サーカスだと知らなければストレートプレイを観に来たのだと勘違いしそうだった。

舞台セットは壁と立方体の組み合わせで、部分的に穴が空いたり飛び出したりと可動ではあるものの、それ自体の入れ替わりはない。目立つ模様はなく、代わりに照明でセットに柄を描く。たとえば煉瓦の壁や、崩れ落ちるキューブを。
公式サイト曰く「都会の路地裏で自分たちのアイデンティティーを探し求める人々の姿を描いている」。どこか違う次元の幻想的な世界ではなく、この世界のどこにでもある場所のようで、でもパフォーマンスは常人じゃなくて、そのバランスにざわざわした。

メインの演者の周りにも人がいて、それぞれいろんなことをやっているので目が離せない。ブレイクダンスってあんなにさりげなくこっそりやるものだったっけ。

『iD』演目紹介(公式サイト)
印象的だったものをいくつか。

トライアルバイク

BMXが客席を走るのはずるい。ローラーブレードと追いかけっこだなんて興奮せざるをえない。
サイクルモードで観たBMXはカーブを登って空中で演技する、流れるような動きだったけど、こちらは舞台と客席を行き来したり、舞台セットの上まで登ったりの、「一箇所に静止してからジャンプ」の動きが多め。
ジャンプする姿は危なげなかったけれど、それにしたって観客を舞台に寝転ばせて顔の上を飛び跳ねるのは観ているだけで恐ろしい。そりゃ手で股間を押さえるわ。

コントーション/ビーボーイ

人間の身体ってあんなに柔らかくしなるものなのか。手足の関節が行方不明で、爬虫類かなにかのようだった。演出とあいまってひどく妖しい。

ジャグリング

両手とボールに磁石を仕込んであると疑いたくなる鮮やかさ。最大7個?のボールをいろんな回し方で操っていて、目で追うだけでも精一杯。
後ろにいた、ツナギ姿で工具箱を持っているパフォーマーがかわいかった。

トランポウォール

演目の最初、セットの上にいた人が悲鳴をあげながら下に落ちるのと同時に、セットに映された壁の映像が細かいキューブに分かれて崩れて、唐突すぎて本当に壁が壊れて人が落ちたように錯覚した。落ちた下にはトランポリンがあるので、すぐに跳び上がってきたけれど。
動くセットの中をあまりに身軽に飛び跳ねていて、自分も跳べそうな気がしてくるから怖い。すごく気持ちよさそうだった。

地方公演をやってまた東京でやるようだけど、TOKYO DOME CITY HALLの2階席3階席で観るのも楽しそうだ。エアリアル・フープのように高さのある演技はきっと見え方がだいぶ違う。